「最近、物忘れが増えた」「なんだか歩き方がおかしい」――。ご家族のそんな変化に、「年のせいかな」「認知症が始まったのかも」と心配されている方もいらっしゃるかもしれません。
認知症というと「治らない病気」というイメージが強いと思います。確かに、いちばん多いアルツハイマー型認知症は、お薬で進行をゆっくりにすることはできても、元どおりに治すことはまだ難しい病気です。
ところが、認知症とよく似た症状が出る病気の中には、手術で良くなる可能性があるものがあります。医師のあいだでは「治る認知症」と呼ばれることもあります。
今回は、脳神経外科の手術で治療する代表的な4つの病気を、できるだけわかりやすくご紹介します。
1. 脳の中に水がたまる「正常圧水頭症」
脳の中や周りには、脳を守るための水(脳脊髄液)が流れています。この水は毎日つくられては吸収され、いつも一定の量に保たれています。
ところが年齢とともに、この水の流れや吸収がうまくいかなくなることがあります。すると脳の中に水がたまり、脳が少しずつ押されてしまいます。これが「正常圧水頭症」です。60歳を過ぎた方に多く、決して珍しい病気ではありません。
こんな症状に注意
- 歩き方が変わる:足を少し開いて、すり足でちょこちょこ歩く。向きを変えるときにふらつく。
- ぼんやりする:物忘れが増え、何をするにもやる気が出ない。反応がゆっくりになる。
- トイレが近くなる:急に尿意を感じて、間に合わないことがある。
特に「歩き方が変わった」ことが、最初のサインになることが多い病気です。
どうやって調べて、どう治すの?
CTやMRIで頭の中を撮影すると、水がたまって広がった部分が見えます。さらに、腰から少しだけ水を抜いて、歩き方が一時的に良くなるかを確かめる検査(タップテスト)を行います。
治療は「シャント手術」です。体の中に細い管を通して、たまった水をお腹などへ流す通り道をつくります。手術のあと「杖なしで歩けるようになった」「表情が明るくなった」と喜ばれる方も少なくありません。
2. 頭をぶつけたあとに起こる「慢性硬膜下血腫」
転んで頭を軽くぶつけた。そのときは何ともなかったのに、1〜2か月たってから様子がおかしくなる。そんな病気があります。
頭の骨と脳のあいだで少しずつ出血が続き、血のかたまり(血腫)がじわじわと大きくなって脳を押してしまう病気です。ぶつけたこと自体を、ご本人もご家族も忘れていることがよくあります。
こんな方は特に注意
- ご高齢の方
- お酒をよく飲む方
- 血をサラサラにするお薬を飲んでいる方
こんな症状に注意
急に物忘れがひどくなった、ぼーっとしている、片方の手足に力が入りにくい、頭が痛い……。「ここ数週間で、急に認知症が進んだように見える」のが特徴です。
手術は体への負担が比較的少ない
頭のCTを撮れば、すぐにわかります。治療は、頭の骨に小さな穴を開けて、たまった血を洗い流す手術です。多くは局所麻酔(手術する部分だけの麻酔)で行えます。手術のあと、驚くほど早く元の状態に戻る方も多い病気です。
3. ゆっくり大きくなる「脳腫瘍」
「脳腫瘍」と聞くと怖いイメージがあるかもしれません。でも、なかにはゆっくり大きくなる良性のもの(髄膜腫など)もあります。
おでこの奥(前頭葉)にできた場合は、手足のまひなどの目立つ症状が出にくいことがあります。その代わりに「やる気がなくなった」「性格が変わった」「物忘れが増えた」といった、認知症によく似た変化で気づかれることがあります。
腫瘍の種類や場所によっては、手術で取り除くことで症状が良くなることが期待できます。
4. 脳の血管が細くなる「虚血性脳血管障害」
脳は、たくさんの血液を必要とする臓器です。ところが、動脈硬化などで脳へ向かう血管が細くなったり詰まったりすると、脳に届く血液が足りなくなってしまいます。
代表的なのが、首の血管(頸動脈)が細くなる「頸動脈狭窄症」です。ほかにも、脳の太い血管が詰まっているケースや、日本人に比較的多い「もやもや病」という病気もあります。
なぜ認知症につながるの?
血液の流れが悪い状態が続くと、脳梗塞(脳の血管が詰まる病気)が起こりやすくなります。小さな脳梗塞をくり返すうちに、物忘れや判断力の低下、歩きにくさなどが少しずつ進んでいくことがあります。これを「脳血管性認知症」といいます。
どんな治療があるの?
- 頸動脈内膜剥離術(CEA):首を切開して、血管の内側にたまった汚れ(プラーク)を取り除きます。
- 頸動脈ステント留置術(CAS):カテーテルという細い管を血管に入れ、内側から血管を広げます。
- バイパス手術:頭皮の血管を脳の血管につないで、脳へ流れる血液を増やします。
これらの手術のいちばんの目的は、これから起こる脳梗塞を防ぎ、認知症が進んだり寝たきりになったりするのを予防することです。血流が良くなることで、物忘れなどが改善したという報告もあります。
ただ、一度弱ってしまった脳の働きが元に戻るとは限りません。だからこそ、早めに見つけることが大切です。
血圧が高い、糖尿病がある、コレステロールが高い、たばこを吸う。こうした方は、首の血管の超音波検査(エコー)や脳のMRIで、一度血管の状態をチェックしておくと安心です。
「年のせい」とあきらめないで
ここでご紹介した4つの病気は、CTやMRI、エコーなどの検査で見つけやすいのが共通点です。一方で、治療が遅れると回復しにくくなることもあります。
こんな変化があれば、一度ご相談ください
- 歩き方がおかしい、転びやすくなった
- 物忘れと一緒に、トイレの失敗が増えた
- ここ数週間〜数か月で、急に様子が変わった
- 最近、頭をぶつけたことがある
- 手足のしびれや力の入りにくさ、ろれつが回らないことが一時的にあった
最後の「一時的なしびれ・ろれつが回らない」は、脳梗塞の前ぶれ(一過性脳虚血発作)かもしれません。すぐに治まっても、できるだけ早く受診してください。
また、手術が必要な病気以外にも、甲状腺ホルモンやビタミンの不足、飲んでいるお薬の影響などで、認知症のような症状が出ることがあります。これらも治療で良くなることが期待できます。
ご家族の「なんだか最近おかしい」という気づきが、早期発見のいちばんの手がかりです。気になることがあれば、どうぞお気軽に当院までご相談ください。





